を五ツだせ。それをださないと、いつまでも、あがってやらないぞ」
「五ツでも十でも食えるだけだしてやる。早くあがってこい」
「ヨシキタ!」
 と、カメは綱につかまって、とびあがってきた。一同も愁眉をひらいて、
「やア、よく生きていてくれた。バカの身体は不死身だというが、よくしたもんだなア。カスリ傷ひとつないじゃないか。これに越したことはない。めでたい。めでたい」
 と、皆々よろこんで、ミソ漬をいれた大きなムスビを五ツこしらえてくれた。

          ★

 カメの女房はひどく膏《あぶら》をしぼられて、亭主というものは一家の大黒柱である。お前も亭主のオカゲで生きていけるんじゃないか。コクツブシとは、お前のことだ。このフウテンアマメが、と多茂平はじめ町内の旦那方に口々に叱りつけられて、この一夜のケリがついた。
 家へ帰って二人きりになると、ほんとにアンタすまなかった、怪我はないかえ、さぞ冷めたかったろう、などと、たいへんグアイがいい。いいアンバイだと思ってカメはよろこんだが、翌日になって、腹いっぱい食わせてくれるわけでもない。
「オカカ。オレ、このウチの大黒柱だな」
 オカカというの
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