、オイ。お前がそう言われたんじゃないんだろう。なにが、ハイ、そうですだ。このアマめ。とんでもない野郎だ。このコクツブシとは何のことだ。亭主をつかまえて、おまけに亭主の脳天を棒でぶんなぐりゃ、カメが死にたくなるのは当り前だ。お前は亭主殺しだぞ。火アブリにしてやるから、そう思え」
町内の連中が、いきりたって、責めたてる。ムリもないことである。
井戸の底へ、これがきこえるから、カメは気が気じゃない。自分の大事の女房だ。火アブリにされてはたまらない。たまりかねて、
「オーイ。オレ、生きてるよ」
「アレ。なんか、きこえるぜ。アッ! カメが生きてるよ」
ワアッと一同は大よろこび。多茂平は井戸をのぞきこんで、
「オーイ。カメ。しッかりしろ。傷は浅いぞ。いま、綱を下して助けてやるからな。お前、綱につかまって、一人で、あがれるか」
「あがってやるが、女房を火アブリにしないか」
「あんなことを言ってやがる。あまい野郎だ。よしよし。お前が一人であがってくれば、女房を火アブリにもしないし、おいしい物をタント食べさせてやるぞ。元気をだして、辛抱してあがってこい」
「ありがたいな。そんなら、ミソ漬けのムスビ
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