Y先生まで、舟橋・織田も情痴作家とよばれることを厭がりますね、などと取りすましてゐる。とりつく島がない。
 いつだつたか新潮社のS青年が現れて、サルトルは社会的責任を負ふと声明してゐますが、あなたは如何といふ。この方はハッキリしてゐて気に入つたから、勿論だ、牢屋へでもなんでも這入る、と威勢のいゝところを見せて、ソクラテスを気取つたものだ。ぢや、あなたも声明を書きませんか、ときたから、私も憤然として、そんなこと書くのはヤボといふものだ、作家が自分の言葉に責任を負ふのは当然ではないですか、決闘して死んだ男もあるですよ(ホントかね)。あんまり見上げたことではないが自殺した先生方も多々あるです。僕など生きることしか手を知らないのだから、酒となり肉体となり、時には荘周先生の如く蝶ともなれば、こゝに幻術の限りをつくして辛くも生きてゐるにすぎない。あに牢獄を、絞り首を怖れんや。絞り首は恐入るけれども話の景気といふもので、ザッとかういふぐあひに御返事申上げた。だいたいサルトルが書いたから私にも書けとは乱暴な。先日酔つ払つて意識不明のところを読売新聞の先生方に誤魔化されて読みもしないサルトルにつき一席口
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