なかつたが、まして暗闇の奥に中介をいたはる者がゐようなどゝは気づく筈があり得ない。
「中介よ。我々は所詮女の敵ではあり得ないのだ。彼等は腕力すぐれ、常に悪智恵をはたらかし、事あるたびに人をだまし、陥入れ、人の目の玉へ指を突つこんで掻きまはし、人が水に溺れた時は石をぶつけ、一円借せば百円の利息を強奪し、年中ひそかに食べすぎて所きらはず吐いてゐる獣だからな。あゝ、気の毒な中介よ。お前だけはたつた一人の人間らしい人間だ。天帝よ。雷となつて俄に落ちよ。べッ、べッ。あの下劣、不潔なる酒宴を見よ。彼らはムク犬の尻尾を生やした呑んだくれ共だ。お前と俺だけが地上の二人の人間なのだからな」
と中介の背中をさすつてゐるのは三平であつた。彼は立廻りの始まる時に辿りつき、一部始終を暗闇に立ちすくんで、同情の涙を流して見とゞけたのである。
「いざ、孤独なる魂の古巣へ帰らむ。あゝ、道は闇い。風は冷めたい。然し、余は常にカラ/\と哄笑し、駄法螺を吹き、歌を唄ひ、身に危急の迫る時には一陣の風となつて打ちむかひ、かなはぬと見れば壁となり、又は蛙の卵となつて素早く難を避けるであらう。中介よ。余等は之より高らかにバルヂン
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