管の中も調べてくれ」
「どこで誰にどうされたのだ。見れば酔つ払つてもゐないぢやないか」
「ヤヤヤ」
中介はこのとき鉄のベッドの後側に目盛のコップを握つてゐる信助を認めて、悲痛な叫び声をあげた。彼の蒼白な顔は絶望と驚愕のために紙の面のやうになつた。
「あゝ、余は敗れたり矣! お前はこゝへ先廻りをしてゐたか。敵ながら賢明なるジャコビン党よ。見かけによらぬ強敵だ。吾あやまれり矣! 敵の智謀を見損つてゐたのだ」
「はてね。君は信助君と喧嘩をしたのか」
「嗚呼《ああ》余は実に彼の女房の女ジャコビン党員に毒殺されたのだ」
「フーム。その毒は飲まされたのか、それとも注射か」
「分らない」
「なぜ」
「気がついたときは部屋のまんなかに倒れてゐた。全身が毒にしびれ、頭が火のやうに焼けてゐる。俺の命も今夜限りだ」
「どれ、お見せ」
そこで稔は中介を裸にさせて全身をしらべ、舌をださせたり、目蓋の裏をひつくりかへしたり、最後に頭を調べて、中介が悲鳴をあげて飛びあがると、やうやく万事が分つたのである。
「女ジャコビン党員は後方から棒でもつて殴つたらしいな。さもなければ、何かのハズミに君がひつくりかへつて後頭
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