愉しい夢の中にて
坂口安吾
−−
【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)併《しか》し
/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)ニヤ/\
*濁点付きの二倍の踊り字は「/″\」
−−
昨夜、ちやうど河田の夢を見た。
私は見知らない藁屋根のある農家の庭をぶら/″\してゐた。旅先であつたらしい。ひどい旅愁に苦しめられてゐたのである。どつちを眺めていいのか分らなかつたり、どの見知らない方角を眺めることも苦しかつたり怖ろしかつたり、身体が蒼白く痩せてしまひさうな心細い旅愁であつた。すると、暗い樹木の中から、まつさをな死の顔をした人間が黙つて私に近づいてきた。見ると死んだ河田であつた。幽霊だと思つたので、そのとき私はたしかに胸がしめつけられたやうに記憶してゐる。「河田の幽霊か」と私は言つた。
すると河田は、あの男の独特な苦笑とも哄笑ともつかない複雑な又可憐な笑ひを浮べて、
「人ぎきの悪いことを言つてくれるな。僕は精霊ぢやよ」と答へた。いかにもあの男の言ひさうなことである。ところが私は、これは又いかにも私らしい愚かなことを白状しなければなら
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