せに! この豪華を私は愛す。私に光ある実在を教へた河田を私は時々思ひ出さずに生きられない筈である。私は自分勝手にしか物が言へないが、河田はそれに理解の微笑をそそいでくれる男である。
今は死滅といふ厳とした事実と化した怖るべき現実に向つて、――私はこの知性を超えた厳然たる事実が最も苦手だ!――とても下手くそに戦闘がいどめるものではない。私の感情ではとても及びつかないこの「他人の死滅」といふ雲のやうな事柄に慟哭できる素直な人々が心の底から羨やましいのだ。なつかしい男であつた河田に、呟くならば一つの呟きを洩らすほかに私は何もできない。安らかに睡れ。
底本:「坂口安吾全集 01」筑摩書房
1999(平成11)年5月20日初版第1刷発行
底本の親本:「桜 第二巻第三号」近藤書店
1934(昭和9)年4月1日発行
初出:「桜 第二巻第三号」近藤書店
1934(昭和9)年4月1日発行
入力:tatsuki
校正:noriko saito
2009年4月19日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.g
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