矢田津世子宛書簡
坂口安吾
−−
【テキスト中に現れる記号について】
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地から1字上げ]安吾
−−
御手紙ありがたく存じました。御身体御大切に。身体が弱ると、思想が弱くなるのでいけません。
小生、今月始めから漸く仕事にかかりました。この仕事を書きあげるために命をちぢめてもいいと思っています。今の仕事は、存在そのものの虚無性(存在そのものの、と言うよりほかに今のところは仕方がないのですが)を知性によって極北へおしつめてみようとしているのです。この小説が終ったら、僕の生活に飛躍がくるかも知れません。この小説のあとは、もう行動があるばかりかも知れません。社会的な実際運動へ走るほかに仕方がないのではないかと、時々思うのですが、然しすべては、ただこの小説の書かれた後に、自分の真実を見定めるほかに仕方がないのです。
僕の虚無は深まるところまで深まったようです。おしつまるか、ぬけでるかで、もう仕方がないのです。ロレンスはのっぴきならぬその虚無を肉体によって解決したと思っていますが、あれは解決ではありませんね。あの小説の中でチャ
次へ
全3ページ中1ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング