タレイ夫人は救われていますが、メロオズは明らかに救われていないのです。僕はあくまで知性にたよるほかありません。そして知性が、虚無を割りきった後に尚、文学の形に於て何物か建設しうるかどうか、もはや文学をすてて行動に走る以外に道がないか、僕のとる道はその結果へおしすすむほかに仕方がなくなりました。
 仕事は秋の終るまでに出来るでしょう。僕はもうただ生きなければならないのです。真実を知ることだけ。そして今必要なのは書斎だけです。世間に魅力がありません。色々の病気のために身体がいくらか衰弱していますが、精神は生れて以来はじめて健康だと思っています。そして、いわゆる世間的な悲哀が感じられなくなりました。
 僕の存在を、今僕の書いている仕事の中にだけ見て下さい。僕の肉体は貴方の前ではもう殺そうと思っています。昔の仕事も全て抹殺。[#地から1字上げ]安吾
 津世子様


底本:「坂口安吾選集 第二巻小説2」講談社
   1983(昭和58)年1月12日第1刷発行
   1984(昭和59)年3月20日第2刷
入力:高田農業高校生産技術科流通経済コース
校正:小林繁雄
2006年7月4日作成
青空文庫
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