は、いまお前さん方が無法にも人の通行を邪魔してることだ。天下の公道の中にウスとキネの関所があるのは聞いたことがない。もしも、たってさえぎると、お前さん方は法律によって牢にはいることになる。それがタタリというものだ。そのほかにタタリがあったら、お目にかかろう」
助六はこう見栄をきった。そしで荷車をひく人足にきびしく前進の命令を下した。十名あまりの有志の中にたってさえぎる勇者が一人もいなかったので、平吉も涙をのんでウスとキネの侵入を見送らなければならなかった。助六の餅については、その発端からこういう曰くインネンがあったのである。それからもう二十何年も時が流れている。あいにく餅のタタリが現れて助六の杉の木が雷にうたれてさけることもなく、助六のノドに餅がつかえたことすらもないから、平吉の無念の涙はいまだに乾くヒマがなかったのである。そこで平吉は泥棒のおき残した手ヌグイ包みの餅を仏前のタタミの上において、仏壇を伏し拝んで落涙し、ついに御先祖様御一統の加護があらわれたことを感謝したのである。
証拠より論
元日の午《ひる》、村の重立った者が役場に集って、心ばかり新年を祝うことになっ
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