ものだ、という先祖からの家伝によるのであった。
杉の木の当主助六は戦争中に杉の木にシメナワをめぐらして神木に仕立ててしまった。そして無事供出をまぬがれるとともに、シメナワをはるわけにいかない隣家の円池を見下して、杉の木の由緒を誇ったのである。それ以来、両家の仲は一そう悪くなってしまった。
杉の木の助六は若いころ旅にでて、オシルコもおいしいし、お雑煮もおいしいものだということを発見し、年に一度の正月に餅を食うのは舌にとっても正月だということを確認したのである。そこで自分の代になると、正月は餅をついて食うことにした。
その餅をつくためのウスとキネを町で買って村へ戻ってきたとき、村境にでて助六を待っていたのは村の有志十名あまりで、その先頭に平吉がいた。彼は皆を代表して助六をさえぎって云った。
「そのウスとキネはこの村の中には一歩も入れられない」
「なぜだ」
「そういうものでスットンスットンやると、餅を食べたことのない御先祖様御一統の地下の霊がおどろいてお騒ぎになる。また村の神様のタタリもあろう。村に不吉なことが起るから、そのウスとキネは一歩も村の中に入れられない」
「そのタタリというの
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