倒れてしまうじゃないか。塀につづいて、土蔵や物置も危いかも知れない」
「それぐらいのことは、さしたることじゃない。雷が落ちて倒れた時のことを思えば、なんでもないことだ。落雷だったら、母屋の方へ倒れるかも知れないのだ。二度とインネンをつけると、この棒が物を云うぞ」
見ると助六の顔は妙にゆがんで目がつりあがっている。その目にはドロンドロンと変な焔が吹きあげていて、まったくいつ六尺棒が襲いかかるかはかりがたい殺気がこもっている。まるで発狂したような物凄さだ。村には助六を説得できるような人物もいないことだし、女房も長男も仕方なく、野良へ引き返した。見ているよりも、野良で働いている方が気が楽だったからである。そして杉の木は切り倒されてしまった。杉の木の根の方が三尺ほどと、頭の方が一間ほど切り落されて、あとの部分は買った人が数日がかりで運び去った。
切り落した根と頭の部分は助六のよんだ人足が運んで行った。そしてそれから十日ほどの後、助六は紋服に袴、頭には山高をかぶって家をでたが、その夕方、大八車につきそって戻ってきた。その車にはシメナワをまわして御幣を立ててウスとキネが御神体のようにのッかって
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