んじゃないか。少しは若い者を見習ってもいいと思うな」
「イヤだ。オレは今まで働いた分をパチンコで遊ぶのだ」
「お父さんの働いた分はもうなくなったよ。うちの財産は野良に作った物だけになったんだから、もうお父さんのパチンコの金はないね。もっともお父さんが野良で働けば別だがね」
 助六は目玉をむいたまま、そッぽを向いて、それに返事をしなかった。
 それから五六日、助六は相変らず弁当持ちで朝から晩まで家をあけていたが、ある日突然人夫をよびこんで、庭の真ン中の自慢の杉の木を切ってしまったのである。助六はまず自分の手で杉の木にまいたシメナワを切った。もともと自分の手で神木に仕立てたのだから、シメナワを切っても神威を怖れるには当らないが、どういうわけか、それから彼はキリリとハチマキをしめて、六尺ぐらいの棒を握って、門の前にがんばったのである。
 この知らせをきいて、長男や女房が野良から駈けつけてみると、キコリたちがエイエイと大木に切りこんでおり、門前には助六が六尺棒を握りしめて、女房子供もよせつけない。
「杉の木が倒れるまでは誰も門の中へ入れないぞ。あッちへ行っておれ」
「だって杉の木が倒れれば塀も
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