いたのである。
「これが先祖代々わが家に伝わった御神木の根の方と頭の方だ。以後これが当家の家宝であるから、火事があっても、これだけは守らなければならない。また、新年には、これで餅をついて賑やかに祝え」
ウスとキネを神棚の下にすえて、彼は家族に申し渡した。
「これからはオレも生れ変って働く。オレはオレで働くから、お前たちは今まで通り、野良で一生ケンメイ働くのだぞ」
彼自身は野良にはでなかった。大工を入れて、杉の木が倒れて塀のこわれた場所で、自ら指図してせッせと工事をはじめた。塀の修繕ができるものと思っていたところ、ある夕方戻ってみると、ウナギの寝床のような小屋ができあがっている。翌日は看板屋がきてペンキの看板を書き、また翌日には一台のトラックがパチンコの機械を運びこんだ。女房や長男が表の方へまわってみると、看板には「大当り神木軒」とあった。そこは往還に面しておらず、畑に面し、細い野良道の中途であった。つくづく呆れた長男が、
「表通りならいざ知らず、野良道にパチンコ屋をたてたッて景気がでるものか。第一、通行人が気持をそそられないじゃないか。モグラかカラスでもお客にするがいいや」
と冷
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