て、彼の生命を救うことにもなるのである。ここに我々は強力な村民の決議をもって、彼のウスとキネを焼却させたいと思うが、いかがであろうか」
「それはよい考えだ。昔から一村こぞッて餅を食べない習慣の村だから、一軒だけ餅をたべるというのは村のためによいことではない。村の者は同じ一ツの心でなければならないから、杉の木のウスとキネは焼いた方がよいな」
 こういう決議がきまって、平吉が代表の先頭に立って、助六の病床を訪れ、
「お前もウスとキネのために御先祖様御一統のタタリをうけて、まことに気の毒だ。そのタタリを払うためにウスとキネを焼くことにきまったから、これからは心を入れかえて、みんなと仲よくやってもらいたい」
 家族の者にウスとキネをださせ、これを河原へ運んで神官に清めてもらって灰にした。助六は観念したのか、一言も物を云わず、彼らの為すがまま見送ったのである。さて熱がさがって病床から起き上った助六は、家にいても面白くないので、朝食がすむと弁当もちで自転車にのって町へでかける。彼はパチンコにこりはじめたのである。
 家族の者は彼の心事に同情していたから、はじめは文句も云わず、彼の代りに野良へでて彼
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