でもない。なぜかというと、この餅は餅米のツブだらけで、粗製乱造の賃餅だ。自家用にこんな粗製乱造の餅をつくることはないものだ。私が犯人でないというレッキとした証拠を見せてあげるから、待っていなさい」
 助六は自宅へ走って帰って、五ツ六ツ餅をとって戻ってきた。
「ごらんなさい。これが私の家の餅だ。この餅を同じように焼いてお見せするから、泥棒の餅とくらべてごらんなさい。中を割って、ツキぐあいを見れば一目でわかる。さ。手にとって、中を割ってごらんなさい。一方はツブだらけ、私のにはツブがなく、ひッぱればアメのようにのびる」
「一方は焼きたてだからのびる。冷えてしまえば、のびる筈がない」
「ツブを見てごらん」
「なに、冷えたからツブができたのだ」
「そんなバカな。じゃア私のも今に冷えるから、そのときツブがあるかどうか見てごらん」
「冷えたてはツブができない。こッちは一晩たってるからツブができたのだ」
「餅のことを知りもしないで、何を云うか」
「なんだと? 餅のことを知らないと? 知らない者に餅を見せて、なぜ証拠調べできるか。それでは証拠調べではなくて、皆を口先でだまして、証拠をごまかすコンタンであ
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