―木枯は、恰も俺の活力を刺し殺すやうに酒倉のペンペン草を枯してしまふのだ。すると俺は――
ああ! 俺は冬が大嫌ひだあ!
冬は――俺の心をさむざむと白く冷くするのぢやよ。寒気は俺の脳味噌をも氷らせるのだ。俺の一切の運転はハタと休止して――俺はペンペン草と一緒に、ここに果敢《はか》なく枯れ果ててしまふのだ。顔色はいふまでもなく蒼白となり、目は鈍くかがやき、脳味噌は――脳味噌といふ代物を余はひどく怖れるよ――脳味噌は、氷りついて動かないのだ。そこで俺は様様な手段を講じてぜひとも脳味噌を動かさうと勉めるのだ。俺の目はいみじくも光り輝き、額は痩せくたびれて、頭は唸りを生じ、俺は――ほがらかに気狂ひになりさうな気がするのだ。俺の唇は酒を一滴も呑まぬのに呂律も廻らなくなつて、ワハ、オモチロイヨ、などと言ふのだ。こんな風にして、俺の身体は何かガラスのやうな脆い物質から出来てゐて、どこかしらん一寸でも動かしたが最後ピチピチと音がしてわれちまふやうな気になる。舌を出してさへゼンマイがくづれさうな気がするから(ああ、舌が出してみたいねえ)笑ひたくてたまらないのだが――俺は断じて笑はんよ。武蔵野に展かれた
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