ううんと呻えたまま天高く両腕をつきあげて進退ここに谷《きわ》まつたといふ印をしてしまふのだ。すると真夏の太陽がカアンといふあの変テコな沈黙でいやといふほど俺の頭を叩きのめすものだから、俺は危く目をまはさうとするのぢやよ。おお光よ、おお緑よ、おおペンペン草よ、怖るべき力よ、俺の若き生命よ。余は緑なすペンペン草の如く太陽のあるところへ一目散に駈けてゆかねばならぬ。ああ酒は憎むべき灰色ぢやよ、と俺は思ふのだ。
――酒は頑としてサヨナラぢやよ。
と、そこで俺は憤然として酒倉を脱走するのだ。「ああ太陽よ」とか「おお生命よ」とか、まあそいつたことを喚きながら、俺は何分あまりにも興奮して酒倉を走り出るものだから、つい亦ペンペン草に足をとられて大概は四ん這ひになり畢り、酒は実に灰色ぢやよ、俺は頑としてそれを好まんよなどと叫びながら這ひ出してゆくのだつた。
すると酒倉の亭主は――先刻御承知の瑜伽行者だが――ペンペン草の間から垣間見える俺の尻を見送りながら「木枯が吹いたら又おいでよ」と、ニタニタと笑ふのだ、「木枯が吹いたら又おいでよ」と、ね。
まことに木枯と酒と俺は因果な三角関係を持つものである―
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