瑜伽経《ゆがきょう》に説く弓坐《ダヌラーサナ》、孔雀坐《マユラーサナ》の類でもあらうか。見れば股かげにその丸顔をもぐらせて相も変らずニタニタと笑はせながら、それでも流石に目を閉ぢて豆程もある脂汗をジタジタとわかせてゐるのだ。
 蛇の踊りがこうして、何の変哲もなくものの五分も続いてゐたらうか。すると俺は、ひどく酔つたせえで目のまはりに白い靄がかかつたんだと、さう思つたのだ――周章てて目の周《マワリ》をこすつたのだが、模糊とした靄は一向に消えやうともせず、今度は何となくフワフワと渦を巻いて見えるから――ああ俺は遺憾なく酔つちまつたんだと匙を投げて拳骨をふりあげた、すると――だだだ、何たる事だ! ゆらめく靄はするりと縮んで忽ちに一つの塊におさまつたと思ふうちに不思議な香気が鼻にまつはつたやうな気がしたが、ばかに一面が気持よく澄み渡つたやうだと思ひついた時には、もう目の向ふに波羅門《バラモン》の銅色の娘が綺麗な裸体でねそべつてゐるのを見出してゐた――娘はひどく自由な、物なれた物腰でゆるやかに立ちあがると、すぐ自分の横にそびえたつ魁偉なる尻の塔を眺めてゐたが(べつにおかしくはないとみえて、俺のや
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