ブッ通したのだ。ヘト/\に疲れて、私など目が廻り、どうにとなれ、もう厭だ、と動く力もなくなつたほどだ。
私の裏隣りには五〇キロ直撃で、いつぺんに一つの家が火の海になつたが、これを消したのは私の家に同居してゐたタカシ君といふ二十の少年工で、元来は左官職だが、江戸ッ子の職人だから徴用されても会社の規則には服しきれず不平満々、工員としては大いに不良の方だ。ところがイザとなると、まつたくたのもしいもので、燃えあがる猛火のまつたゞ中へ飛びこんで行つた。私らは外からチョボ/\水をかけるぐらゐのものだが、この少年は無我夢中まつたゞ中へとびこんで突く蹴る倒す阿修羅の如く火勢の中心をゆるめてくれたので、四五人でともかくこゝを処理した。それからの二時間、前後左右みんなこの少年の捨身の肉弾突撃によつて私の家は再び焼け残つたのである。
私の友人に大井広介といふのがあつて、彼の家は新宿御苑の近所にあるのだが、その隣りへ内原訓練所の生徒が上京して合宿してゐた。ところが五月十三日の空襲に、この夜はこの地区は攻撃の主目標を外れてゐたのだが、たつた一機だけがこゝを狙つたのがあり、火の手があがつた。すると内原訓練所の
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