て焼夷弾をバラまかれたり、爆弾をふりまかれたり、念入りの上にも念入りにやられたもので、まつたくウンザリしたものだ。
 ところが五十名の優良工員の方は一向に役にたゝなくて、隣家へ焼夷弾が落ちて火事になつてもボンヤリ眺めてゐるだけであり、その次からは、警戒警報で勢揃ひをし、空襲警報になると各自全財産を背負つて粛々と逃げだす。号令をかけて逃げだすのである。寄宿舎はガランドウだ。
 私らのところは焼野原のまんなかに三十軒ほど焼け残つてゐる。これがどうして焼け残つたかといふと、例の七八名の不良少年組の方が、猛火のまんなかに踏みとゞまつて消してくれたのだ。私らのところがやられた時は風のない日だから、命をまとに踏みとゞまる者があれば消すことができたのだが、前々の例で死ぬのが怖しいから消さずに逃げて綺麗に一望千里の焼野になつたので、私らの小地区だけ不良少年組が救つたのである。
 その後、せつかく焼け残つた私らの地区は再び二時間にわたる焼夷弾攻撃をうけて、私の前後の二軒に五十キロ焼夷弾、その他あつちでもこつちでも、総計二三百にあまる大小焼夷弾の雨がふつた。一つ消す、又一つ。それを消す、又、落ちる、二時間
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