うな都合のよいものはなくて、かなりムシ歯が多いが、特に特徴となるようなものは見当らなかった。
 ところが当にしていなかった胴体から意外なことが分った。解剖したら、胃の中から、鳥の肉やタケノコその他が現れたのだ。まだ殆ど消化しないうちに死んだのだ。
 そして顔と胴を合わせてみると、クビに絞殺の跡を認めることができた。
 男である。五尺四五寸の普通の体格をしているが、肉体労働をしている人間ではなさそうだ。年齢はハッキリは分らないが、二十以下ではなく、また老人ではない。
 絞殺された二十から四十ぐらいまでの男。分ったのはそれだけだった。

          ★

 胃の中からタケノコが現れたので、上役たちもやや重視した。
「寒のうちにタケノコを食ってるとは、どういう人種だろう? 大ブルジョアか、百姓か。今ごろタケノコなんか売ってやしない」
 当時はカンヅメのない時代だ。胃の中のタケノコはナマのものでなければならない。
「寒のうちで地の下の方にはもう小さなタケノコが生えはじめてますよ。深く掘って探せば指のように小さくてやわらかいタケノコを採ることができます。しかし、そんなタケノコを食ってる人
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