う云えば、どっちも左と右のマゼコゼだ。それにモモと足クビの包みの方はマンナカのスネに当る部分がなく、二の腕とテノヒラの包みの方もマンナカのヒジから手クビの部分がぬけてるな。手と足との二ツの包みがチャンとツリアイがとれてるな。ここに何かホトケのササヤキがあるという次第かね」
妙にインネンが気にかかるから、楠はそれからそれへと考えた。けれども手足の一部分にすぎないものを、いかに長々と睨んでいたところで、ホトケの身許を知る手ガカリなぞ全く現れてきやしない。
けれども彼は家へ帰るとその日からバラバラ日記というものをつけはじめ、職務とは別個に進んで捜査に当ってみようと考えた。そしてこの日記がはからずも後日解決の重要な原因となるのである。その日から折にふれてドテを歩いたが、バラバラ包みと彼とのインネンは以上の二個で終りを告げて、以後の包みはすべて他人が偶然発見した。
九日に顔と左の足クビ以下の部分。
十二日に胴体。
顔が発見されればと当《あて》にしていたのが、この顔からは何もでてこない。鼻と両耳がそがれ、両眼がくりぬかれている。かいもく人相が分らない。一ツ残っている口の中には金歯というよ
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