日本語はこまかいバラバラ事件には不向きで、今年の板橋バラバラ事件は切り方が大マカだから、新聞記者も苦労せずにすんだのである。ところがこッちのバラバラは大そうコマメに切り分けているから、私は思わぬ苦労にぶつかった。ヒジから手クビまでの間だとか、足クビから下方、足のユビまでの部分だとか、一々いそがしくて舌がまわらないね。読者諸賢も小生の舌のまわらぬ苦労のほどを御察しねがいたいです。
 さて楠はその日の勤務を終ったとき、帰り支度をととのえてから、ふとアルコール漬けの拾い物の前へ行ってたたずんだ。
「君だけが拾ってくるというのはタダゴトじゃアないぜ。君に惚れたらしいな、このホトケは。いずれユー的が訪ねて行くかも知れんから、その節は戸籍をきいておいてや」
 と上役にひやかされる。一同もそんな風に感じているらしい。
 一ツのガラス容器に、左モモと右足クビ以下。他の容器が左の二の腕と右のテノヒラ。
「せっかくバラバラに切ったんだから一ツずつ包みにすればよいものを二ツずつ包んでるとは慌てた話じゃないか。筋道が立ちやしない。取り合わせもデタラメだなア。二ツの包みはそれぞれ左と右とマゼコゼだ。ハテナ? そ
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