みは片モモと足クビから下の部分。するとこの死体はよほどバラバラに切り分けられているに相違ない。
バラバラ事件もこうまでこまかくバラバラになると、日本語ではまことに説明がヤッカイである。つまり手といい腕といい、また足といっても明確ではないからだ。解剖学なぞではチャンとそれぞれのこまかい部分に至るまで名詞があるに相違ないが、日常の言葉の方では甚だアイマイだ。
肩からヒジまでの部分は昔はカイナなぞと云ったのがここに当るのだそうだが、今は俗に「二の腕」と云って、とにかく名称がある。ところがヒジから手クビまでとなると、これを示す明確な名称がない。上半分を二の腕と云うのだから、下半分は一の腕。そんな名称はないが、つまり上半分が二の腕に対して、下半分はただの「腕」が本来その部分の名称だったのであろう。渡辺綱が鬼の腕を切る。その腕はヒジから下の部分だけで、肩からの全部ではない。昔はたしかにそうだった。
けれども今日通用している日常語の腕は肩から先の手の全部をさすのが普通で、腕と手は同じ意味である。そして、ヒジから手クビまでの部分を特に示している名称は今の日常語には見当らないのである。目下の日常の
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