のテアイが始末に困って包みにして川へ投げこんだのだろうと軽く考えた。土地柄、当然な考えであったのである。
 楠も大方そんなことだろうと同感して特にこだわりもしなかったが、それから二日目、二月五日の午《ひる》さがりに、用があってタケヤの渡しで向島へ渡り、さて用をすまして渡し舟の戻ってくるのを待つ間、なんとなくドテをブラブラ歩きだすと、また岸の草の中に油紙の包みが流れついているのに気がついた。おどろいて拾いあげてみると、まさしく同じ物。中から現れたのは、左の腕と右のテノヒラであった。
「こいつは妙だ。このホトケがオレに何かささやいているんじゃないかな。一足ちがいで渡し舟が出たこと、なんとなくブラブラとドテを歩きたくなったこと。なんとなく何かに支配されているような気がするなア。二日前に奥山へ遊びに行こうと歩きかけて、なんとなく気が変って渡しに乗ってドテを歩いたのも、思えば今日と同じように見えない糸にひかれているようなアンバイだなア」
 楠は妖しい気持に思いみだれつつこれを署へ持ち帰った。
 新しい包みは左の二の腕、つまり肩からヒジまでの部分と、右の手クビから下、つまりテノヒラである。最初の包
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