がすんで、お食事がすんで、ひとしきり話がはずんで、お客さん方が帰ってしまうまでは、ハナレのトンビの方がうッちゃらかしになってるのは仕方がないよ。私たちもお食事とお茶をいっぺんハナレへ運ぶだけで、トンビの来る姿も帰る姿も毎年見たタメシがないよ」
「オレのタケノコを変テコな奴が食ってやがるんだなア。タケノコを食ってから、なにか変テコな、変ったことが起りやしねえか」
「はばかりながら、このお邸に変テコなことなんぞ起ったタメシはないやね。トンビの男の人だって毎年きまってくる人なんだから、変テコてえほどの人じゃアないよ」
「今年も昼間のうちに消えたか」
「トンビのお帰りなんぞ誰も気にかけてやしない。夕方に昼のお膳を下げに行くと、ハナレにはもう誰も居なくて、お膳の物がカラになってるだけのことさね」
例年通りのことが今年も型の如くに行われただけで、他に変ったこともなかったようだ。また法事のお客たちの方にも例年なみのことが行われただけのようだ。すくなくとも女中たちが目新しく印象した事は一ツもなかったらしい。
きくべきことを訊いたので、長居は怪しみをうけるもと、気前よくタケノコをやりすぎるのもいけな
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