業バラだなア。次第によってはタダの隣ぐらいの値にまけてもかまうこたアねえが、すまねえが弁当を使うから、お茶くれねえか。四時起きして目黒をでてきたから腹がへって目がまわる。お茶代にこれやろう」
 とタケノコ一握りつかんで女中の前カケの中へ落してやる。二人の女中は感激して、
「お前さん気前がいいねえ。百姓させておくのはモッタイない人だよ。寒のタケノコてえ高価なものをサイバイしている百姓は違うよ。それにしちゃアお前さんの着物はやに汚いねえ」
「これはフダン着だ。どうせお前たちも百姓の娘だろうが、惚れるなら目黒のタケノコ百姓に限らアな。タケノコはモミガラをまいてコヌカで育てる。人間の糞みたいな臭いものをコチトラは使うことがねえや」
 大きなお握りをほおばり、女中がつくってくれた土ビンのお茶をすすりつつ、巧みに本題へ運んでいった。
「このウチじゃア寒のタケノコをどうやって食ってるね」
「私達がタケノコ料理を作るんじゃないし、まだお下りを食べた事もないから、よく知らないけど、タケノコメシと煮ツケらしいね」
「まアそんなもんだなア。じゃアお前たちは食ったことがねえのか。毎年オレのタケノコを買ってなが
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