。すると白昼の邸内でも深夜の公園よりも人目が少いようなものだから、白昼でも邸内でいろいろのことが行われうるであろう。人殺しもできるし、それをバラバラにすることもできよう。
「御一族では、そのほかに、最近どなたか行方不明はありませんか」
「そんなにチョク/\行方不明が現れるものですか。私たちをなんと思っているんです。みんな心が正しくて、また才川家の者も、根木屋の者も、代々長命の一族ですよ」
 お直が腹を立てたから、楠はヒヤリとして、そこでイトマをつげた。ひと目でいいから才川の邸内が見たいものだ。女中の一人とでも話を交したいものだ。こう考えふけッたが、やがて一ツの計略に、気がついて次第に彼の顔は明るくほころびた。

          ★

 楠は親ゆずりの多少の財産があったを幸い、なにがしかの金を握って目黒の里へ急行し、百姓にたのんで土の中の小さなタケノコを一貫目ほど掘りだしてもらった。それを買ってザルに入れて持ち帰り、次には知り合いの百姓から野良着を借《か》してもらい、ホンモノの百姓そッくりに変装し古ワラジをはいて適当にホコリをかぶり、タケノコのザルを背負って、六日目の十一時ごろを見は
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