の努力だけでなんとか加十さんにお目にかかる方法を見つけたいと思いますが、せめて何かの特徴の暗示ぐらいはもらしていただけませんか」
「なんとかしてあげたいと思いますが、どうもねえ。特徴といえば一ツあるんですが、それも言わないことにしましょう。勘当の後日にできた特徴で、知ってるのは私だけですがね。悪く思わないで下さいよ。ふとしたお喋りがモトで、旦那のお叱りをうけることが起ると大変だ。もしも、またそのため加十さんの勘当の許しがでないとなったら、それこそ一大事ではありませんか」
「勘当が許される見込みがあるんですか」
「旦那の胸のうちは誰にも分りませんが、これもウチワの秘密ですけど、もう世間に噂もでていることですから申上げますが、加十さんの弟の石松さんがこのところ身持がわるくて、ひょッとすると、これも勘当じゃないかなんてね。その場合には、今の身持によっては加十さんの勘当が許されるかも知れないなんて、いえ、これは旦那の気持がそうだとは誰に分る筈もないんですが、世間の者が旦那の気持までこしらえあげて勝手に噂している次第なんですよ。世間と申しても、まア私たちの身辺だけのことでしょうがね。噂のようなら
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