を人に語ってもならぬ。それが勘当というものだ。これを破れば、キサマは詐欺漢だと仰有《おっしゃ》った。あの旦那は自分のお達しを守らぬ者には心を許さない人ですから、私たちも旦那のお達しといえば、怖れおののいて真剣にまもるんですよ。加十さんの場合にしても、いつか勘当が許されるとすれば、旦那のお達しだけは厳しくまもられていての上でなければなりません。ですから結婚はともかくとして、お達しの完全な励行が第一ですよ。むしろ身を堅めることは、放蕩で勘当された加十さんには大切な意味ある事ですからね。こんなわけで、私も力になってあげて、加十さんは結婚したんです。が、それからのことは、ただ今お話いたしたテンマツのように、旦那自らのハカライでしょうが、私の目から消え失せて分らなくなってしまったのです。旦那が加十さんにどうやってあげていらッしゃるか、それは私ばかりでなく、誰にも見当がつきません」
「以前の居所は?」
「今となってはよろしいようですが、旦那のお達しの範囲にふれると困りますから申されません」
「新しい姓名だけでも教えていただけませんか」
「お気の毒ですがダメですよ」
「あなたの御迷惑にならぬように私
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