からと言い訳をのべると、苦労にやつれた後家の人の好さ。
「今まで良くまア催促もせず黙っていて下さいましたね。御親切に加十さんをかばって、勘当の許されるのを待っていて下さる気持は本当にありがとうござんすよ。ですが、残念ながら、私も居所を知りません」
「易者の天心堂さんの話では、こちらだけがそれを御存知だとのことでしたが」
「あの男が才川さんに働いていたころまでは私も加十さんの居所を知っていたんですよ。実はね。杉代姉さん存命中は、姉さんと加十さんの通信は私のところが中継所だったんです。姉さんの依頼で加十さんの様子を見に行ったことも七八回はあります。ところが姉さんがなくなる際にこれを旦那に打ちあけたものですから、旦那はひそかに私をよんで、お前はもう加十のことは忘れなさい、あとは私がするから、という静かだが厳しいお達しですよ。さア旦那からのお達しとあっては私は一言半句もない。かしこまりました、と平伏して、お言葉通り以後は忘れたフリをしていないわけに行きませんよ。加十さんへもお達しがあったと見えて、加十さんからの音信もバッタリ絶えた。姉さんが乏しいヘソクリを苦面して仕送りしていたのが、今はどうな
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