だ。どうだな。三円の見料はいよいよ安かろう。加十のことを訊きだすならお直のところだが、それをお直に訊いたところで、加十の身持がよくなって勘当が許されるワケはないから、まアよしときなよ。だんだんお前さんに運が向いてるらしいのは人相にも出ているから、ジッと証文を握って辛抱してるがいいや」
だが天心堂は三円の見料の手前があってか、易を立てて見てくれて、
「尋ね人は西に居るが、だいぶ東京から離れているようだ。わりに身持もよく、身体も達者だ。そこにも運気がうごいているから、近々めでたく行くだろう。安心するがよい」
易の卦をオマケにもらって、楠はイトマをつげる。
そうだ。タケノコメシの顔ぶれに直接当るなら女だ、お直からだと考えた。
★
お直は後家だった。亭主が死んだのは十五年も昔のことで、杉代の助力もあったが、女手一ツで四人の子供を育てた。子供が大きくなって、どうやら今では楽になったが、その日の食物にも困るような苦しい暮しが長くつづいたのである。
楠は自分の身分を天心堂に語ったのと同じウソでお直に自己紹介。勘当中の加十の動勢をその実家へ問い合せに行くわけにいかない
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