るのは当然だな。なんしろ平作は元々身内にはあたたかく、他人にはつめたい男。それは奴めの生れつきの気持だなア。世間の甘い考えでは人間は持ちつ持たれつ、情けは人の為ならずだが、平作の気持は生れつき違う。他人同士は鬼と鬼、敵と敵のツナガリと見てその気持の動くことがない。平作ぐらい他人を怖れ他人を信用しない奴はないのだなア。だから六年間の溝ができて血のツナガリの中にも他人の影がさしてしまったと見ているから、元のサヤとは云いながら、今では他人の加十。女房の遺言ながら他人を家へ入れる気持は平作の心にはなかなか起るものではないぞ。ところがつい先日のことだが、人見角造と云って平作の長女のムコで三百代言をしている奴が訪ねてきての話によると、どうやら近ごろは平作のこの心境までぐらついてきたらしいぞ」
 天心堂は荒ぶる神がゴセンタクをくだすようにカッと目をむいて語りつづける。
「どうしてそうなったかというと、次男の石松が兄同様に身を持ちくずしはじめたからだな。加十は十五六から身を持ちくずしたから、放蕩は若いほど軽いならい、それに加十は元々学問が好きな奴で、その学問をやらせておけばぐれなくてすんだかも知れない
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