が死ぬと力を落して鬼が涙もろくなったのは確かだな。アコギな荒かせぎをしなくなった。オレは杉代が死んだ後も半年あまり鬼のウチに勤めていたが、鬼が改心してオレの稼ぎ場も日増しに少くなるようだから、見切りをつけて易者になった。さてそこで加十のことだが……」
 天心堂は易者らしく威をはって楠をにらみつけた。オレの目に見えない物はないという自信のこもった目。そして語りつづける。
「加十がどこで何をしているかは杉代だけが知っていたが、杉代の死後はどうなったかなア。杉代の遺言に、加十の改心を見とどけたら家へ入れて元へ直してやってくれ、ちかごろでは心底から心が改まったらしく、勘当の訓戒を忘れず、他人の姓名を名乗り、貧乏しながらも学を修めてだんだん立派になってるそうだから、と鬼の手をとって泣いたそうな。だが平作は、オレがあのウチに居た間は、その遺言に心のうごいた様子はなかったな。改心しても、鬼は鬼だ。可愛さあまっての憎しみながら、いったん親子の縁を切れば、つめたい鬼になりきるのが奴めの心。六年間も音信不通なら、血のツナガリだけではうめられない溝ができて、元のようにシックリしない他人の距てが双方に生れてい
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