一々オレの見立てに伺いをたてて世を渡る者は必ず出世するぞ。三円五円の見料はタダのようなものだ」
 兇悪そうな目玉を落附きはらってむいている。ニヤリともしない。
「鬼の平作も血のつながる身内の者には目をかけてやる奴で、馬肉屋の弟又吉、妹のムコ女郎屋の銀八、いずれも平作が身を入れて引き立てたおかげで裕福だ。その代り平作の日ごろの訓戒を裏切ると、親でも子でも親類でもない、敵同士だ消えてなくなれとくる。加十の勘当がそれだな。可愛さあまって憎さ百倍。鬼にはそれが強いのだ。加十は杉代のはからいで京都で坊主になったが、またぐれて寺をとびだしてから行方が分らない。この行方を知っていたのは杉代だけで、どうやって通信していたか知らないが、死ぬ日までヘソクリを苦面して月々送金していたようだ。鬼の平作もこれだけは見て見ぬフリをしていたが、それは鬼の心にも有難い女房よと思う心があったせいだ。なぜかと云えば、平作に深い恨みをもつ者が殺しに来たとき、亭主をかばって杉代が二度もフカデを負うている。このオカゲで鬼自身は一度も傷をしたことがない。こういう有難い女房だから、さすがの鬼めも心底では女房に手を合わせている。杉代
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