うに楽な相手ではないらしい。
★
楠は自分の年齢から考えて、加十の遊び仲間の弟と名のった。遊ぶ金に窮した加十にたのまれて自分の兄が用立てた金が千円の余になってるが、せっかく証文を握りながら加十の勘当、行方不明でこまっている。行方の心当りはないか、というわけ。これは易者向きの用にもかなってるから、
「見料はいかほどで?」
冗談のつもりだが、ためらって云うと、天心堂は一向にためらわず、
「この見料はチト高いなア。そこを大負けにして三円にしてやろう」
ベラボーな高いことを云う。楠は内心泣く泣く有金をはたくようにして三円払った。
「オレも鬼の才川平作の手下になって利息の取り立てをやってるうちに、人の人相が読めてきたな。あのころは鬼をあざむき、鬼を泣かせる奴らが多くてこまったな。怖しい奴、ずるい奴、向うところ強敵ばかりでユダンができない。それで敵を知るために必死に人相を読もうという心得が自然にできる。そのオカゲで易者になったが、真剣勝負の心構えで必死に会得した実学だから、オレの人相判断と易の卦はよその易者のヘナヘナの見立てとちがう。思い当って感心したら、またおいで。
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