ノコメシを腹につめこんで折ヅメはブラ下げて帰る方が得だなア」
 銘々が折ヅメを自宅に持ち帰っては、それを食べる可能性の人物がにわかにひろがってしまう。楠はガッカリした。しかし殺されたのが昼メシ直後でないらしいということは、その方が当然有りうべきことなのだ。ここで勇気を失ってはダメだと自分に云いきかせた。
「オレは鬼とのツキアイが不足でダメだ。鬼があばれていたころの番頭が浅草で天心堂という易者になってるそうだ。鬼の全盛の期間つとめあげた奴だから、これも気の荒い家来だそうでな。鬼の改心を見て奴めの方が見切りをつけて主人にヒマをだしたそうな。その後は田島町で易者になったということだ。鬼の悪業はこの易者が存分に知ってるだろ」
 誰々が折ヅメを食べたか? それを思うと気が滅入ってしまうが、まだやっと四日目だ。あと六日と半日あまりある。あせることはない。胃袋の内容から離れることは全然無意味な廻り道か遊びにすぎないような気がしたが、十二名の血族にここでいきなり飛びつくのはそれがアセリというものだ。
 楠はこう考えて寺をでると、坊主の言葉にしたがい、田島町の易者天心堂を訪ねることにした。今度は坊主のよ
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