がすんで、お食事がすんで、ひとしきり話がはずんで、お客さん方が帰ってしまうまでは、ハナレのトンビの方がうッちゃらかしになってるのは仕方がないよ。私たちもお食事とお茶をいっぺんハナレへ運ぶだけで、トンビの来る姿も帰る姿も毎年見たタメシがないよ」
「オレのタケノコを変テコな奴が食ってやがるんだなア。タケノコを食ってから、なにか変テコな、変ったことが起りやしねえか」
「はばかりながら、このお邸に変テコなことなんぞ起ったタメシはないやね。トンビの男の人だって毎年きまってくる人なんだから、変テコてえほどの人じゃアないよ」
「今年も昼間のうちに消えたか」
「トンビのお帰りなんぞ誰も気にかけてやしない。夕方に昼のお膳を下げに行くと、ハナレにはもう誰も居なくて、お膳の物がカラになってるだけのことさね」
 例年通りのことが今年も型の如くに行われただけで、他に変ったこともなかったようだ。また法事のお客たちの方にも例年なみのことが行われただけのようだ。すくなくとも女中たちが目新しく印象した事は一ツもなかったらしい。
 きくべきことを訊いたので、長居は怪しみをうけるもと、気前よくタケノコをやりすぎるのもいけないから、さらに三つかみのタケノコを女中の前カケに入れてやって、わが家へと戻った。
 楠は結論した。
「殺されたバラバラの主はトンビの男。実は勘当された長男加十だ。さて殺したのは誰だか、いよいよ、それが問題だ」
 犯人は誰かと考えても、彼が知り得たことだけでは考えの進めようがないし、然らば次の調査をと思ってみると、これ以上は独力で調査の進めようもない。これからの捜査は正式に警察権を用いてでないと進められない。
 彼はこれまでの調査の次第を整理して、報告書をつくって、清書した。素人の文章で、この大事件を整理して推論の結論を立てる手際のむずかしさは思いのほかで、残った三日の休みをタップリこれに費して、休みの明けた日、これを上司に提出した。
 ところが、ちょうどこの日、久しく現れなかったバラバラの一部が新規に発見されて、今回の包みからは左のスネと左の耳がでた。
 すでに三度目の包みからそうだったが、楠がオヤと思って、ここに何かがあるかと思ったバラバラ包みのマゼ方、左右対照、マンナカの脱落、それは今やハッキリと彼の早合点で、ナンセンスな軽率にすぎなかった。それでくさッているところへヌッと現れた老錬の先輩が、
「なにィ。オイ。この報告書キサマか。タケノコを寒中に用いる料理屋は向島の魚銀だけだと? たったそれだけ聞きこむために十日も休みをもらってボヤボヤ歩いていやがったのか。キサマの分担の役目をオレが先き駈けする気持はなかったのだが、ふと気がついたことだし、先をいそぐから、オレは一流の料亭を三ツ当ってみた。するとオレがここと狙った三軒が全部、八百膳も、亀清も、八百松も、たいがいの日にタケノコを使ってらア。キサマ十日間どこを歩いてたんだ。顔を洗い直して、この三軒の板前にきいてこいよ。調査もれも、ひどすぎて、話のほかではないか。このインチキ小僧めが」
 こう怒られて、楠は色を失った。一日目と二日目は浅草だけシラミつぶしに聞きこみ、下谷の八百膳まで遠からぬところまで調べて行っておりながら、下谷は後にまわして三日目は対岸の向島へ。ここではわりに早々と魚銀にぶつかったから、あとの調査は中止して魚銀で打ち止め。そこで同じ向島の八百松も両国の亀清も調査には行かなかった。
 天下名題のこの三軒の料亭は彼の署を中心に、いずれも遠い距離ではない。先輩が思いついてちょッと行って訊いてみたというのも尤もなところだ。楠は大いにおどろき怖れ、まさに色を失って混乱し、さてこの三軒をきいて廻ると、まったく先輩の云う通り、これらの料亭では寒中にタケノコを用いるのは別に珍しくないことのようだ。楠はバカ正直に一軒ずつ念を入れたおかげで、ムダなところに手間どり、珍しい材料を用いるのはまず第一級の料亭と誰しも第一感で気がつくことを忘れ、その近所まで近づいていながら、タケノコを用いている料亭に限って訊き落している。なんともなさけないバカそのものの大失敗。人々にどんなに罵られても一言も返す言葉がない。いッそ自殺して自分のカラダをバラバラ包みにしてしまいたいと思い悲んだほどである。
 そして、バラバラ事件の調査を進める情念を一気に全部失ってしまった。
 バラバラ包みは、その後、三月九日と、三月十五日にも隅田川からでた。
 三月九日のは左モモと右の二の腕。
 三月十五日のは右手のヒジから手クビまで。
 以上でバッタリと新規の発見は絶えてしまって、結局、両眼と右の耳と鼻、左手のヒジから手クビまでと左のテノヒラ、右のスネ、これだけが最後の発見から三月半すぎて真夏がきたが現れなかった。それはもう魚の腹におさまって変
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