部分のマゼ合わせが同じくて、またマンナカの部分が欠けているのが対照的でそこに何かがあるんじゃないかと思われたせいですね。日記にはそれが正直に情熱的に語られてますね。あなたはこうも見ていますよ。バラバラにしたくせに、二ツ一しょに包むなんて筋道の立たないことをするものだ。そこにワケがありそうだ……」
 新十郎は顔をあげて、いかにもうれしげに楠に笑みかけ、同じ文句をくりかえした。
「バラバラにしたくせに、二ツ一しょに包むなんて筋道が立たないことをするものだ。そこにワケが……ねえ、楠さん。あなたはスバラシイことに気がついたのですよ。ですが、なぜそのワケをもっと追求しなかったのですか」
 楠は恥じて赤面して仕方なしに答えた。
「三ツ目の包みから、左右のマゼ合わせもなく、またマンナカの欠けてる一致も存在してやしなかったからです。早合点で、軽率すぎました」
「そう。左右対照とマンナカの欠けてる一致という点についてだけは、たしかに早合点で、軽率でした。ですが、早合点と判明したのはその二ツだけですよ。バラバラにしながら二ツ合わせて、一包みにするなんて筋道が立たないから、そこにワケがありそうだ、という疑いがあって、そこには確かにいろいろのワケが考えられるではありませんか。あなたは一ツの早合点に気がつくと、にわかに勇気を失ってしまい、他のいろいろのワケをも追求した上で、早合点と判ったものから順に一ツ一ツ取り除いて行くことまで全部やめにしてしまったのですね。せっかくスバラシイ発見から出発しながら」
 新十郎の言葉には、可愛さのあまりに叱るきびしさがこもった。
「さ、これが一ツのヒント。そのあらゆるワケを考えて順に追求して捨てるべき物を棄て取る物を取って進むのが、あなたの新しい出発の一ツ。さて、その次には……」
 新十郎はパラパラ日記の頁をめくって、話につれて一々その箇所を探しだして示しながら語りつづけた。
「魚銀から弁龍和尚の名をきいてまず坊さんを尋ねたのは賢明でした。この坊さんからのキキコミには特に重大なことはないようですが、次に訪れた天心堂以下は次へうつるにしたがって次第に重大そのもののキキコミでしたね。そのキキコミは全部が全部と云ってよいほど意味の深いものでした。あなたはそれを整理して、殺されてバラバラにされたのはトンビの人物、実は加十と結論なさった。まさにそれにマチガイありますまい
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