顔を見せた羽黒家の女中の一人を認めると、アッと叫びをあげて、政子の顔色が変ってしまった。
「どうしたのですか」
「奇妙なことになったわ。わけが分らなくなったのよ。ちょッと考えさせて……」
 甚だしく意外におどろきはてた顔色。すると、女中の方でも政子の訪れに気がついて、一時は隠れたが、やがて心をきめてきたらしく、静かに姿を現した。そして、するどい語気で言った。
「私をかぎつけて来たのね?」
「いいえ。若夫人元子さまにお目にかかりに。女中のあなたは退っていなさい」
 女中は政子を睨みつけて消えた。同行の私服はタダならぬ気配におどろき、
「あの女中とはお知り合いですか」
「チヂミ屋の娘、小花」
 胸の怒りを叩きつけるように、政子は答えた。意外にも、失踪の小花であった。
 元子夫人は突然の訪問にその日の面会を拒絶し、二三日中に知らせをあげるから、改めてお目にかかりましょう、その日をたのしみに致しておりますという侍女からの返事であった。

          ★

 意外なことになった上に、事件の正体が益々雲をつかむようだから、この役は紳士探偵新十郎が適任だと決して、その日のうちに古田巡査が新十
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