マ師だわねえ」
小花は喚きたてたが、久五郎が例の生れながらに授った手という奴で、うなだれて、よわよわしげに侘びしい笑いを浮かべている様子を見ると、ノレンにスネ押しと思ったか、プイと立って外へとびだした。
そして、どういうことが起ったのか、そのまま家へ戻らなかった。陰鬱な隠遁老夫婦は妹の行方を探したり捜査をねがったりするような生き生きと希望のある人生に縁を絶たれた心境だから、それをそのままほッたらかしておいたのは自然なことでもあった。
★
それから二ヶ月ちかくすぎた日、周信がたった一人ものすごい剣幕でのりこんできて、
「貴様ら、まだ品物を隠しているな。オレには見透しだ。みんな分っているのだ。今度こそは許さぬ。明日は早朝から、何十人の大工やトビの者をつれてきて、天井の板も、ネダも、羽目板もひッぺがして家探しするから、そのツモリでいろ。今度こそは洗いざらい、隠しものを一ツあまさず、見つけだして取りあげてやる。ハダカにして尻の穴まで改めてやるから、風呂につかって垢を落しておけ」
大入道が火焔にまかれて唸っているような怖しい剣幕でがなりたてて、土を踏みやぶるように
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