いよ」
久五郎は赤らんでうつむいて、羞しそうに云った。小花は怒った。
「ウソです。隠したお金がなければ、兄さんの性分で、そんなに落着いていられる筈はありません。兄さんは、ずるい人ねえ。昔からその正体は感じていたけど、今まではそのたびに否定しようと努めていたのよ。とても利己的で、冷酷なのねえ。そして、とても陰険そのものよ。乞食男爵のような悪党一味だって、一家族の者だけは腹をうちあけて助け合ってるわ。兄さんは、親兄弟をも裏切って自分一人の利益だけはかる人よ。そしてウワベには色にも見せずに、いろいろな企みができる人ねえ。怖しい悪党よ。生れながらにずるくッて、一見薄ッペラなトンマな坊ちゃんらしい外見を利用する本能まで授ってる人だわ。顔をあからめて口ごもるんだって、生れつき授ってる手じゃないの。もうそんなことで、だまされないわ。私だって、いずれ、家探しするわよ。当り前よ。顔をあからめてごまかす代りに、せめて、マキゾエにしてスミマセン、ぐらいの口上でも述べたら、どう? むろん口上ぐらいで、許せないわ。兄さんは乞食になっても、私の生活を保証する義務があるわよ。我利々々のダマシ屋の卑怯ミレンなイカサ
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