叩ッ斬るのが総てだくらいは妹の奴めに云われなくッとも決まっている話じゃないか。しかし総てを失った奴が仇を叩き斬ってなんになるものか。
三人組は政子の調度類や分捕品をまとめて荷造りした。そして離婚の書類一式にそれぞれ久五郎に捺印させ、慰藉料として五万円その他の物品を支払うからそれでカンベンしてまけてくれという書類にもハンコを捺させた。むろん久五郎は今さら取り乱さずにハンコを捺した。
「フーム。落着き払っていやがるな。まだまだ相当の大金をどこかに隠してやがるに相違ない。由緒ある小沼男爵家の姫を傷物にして五万のハシタ金ではすまないが。これ。顔をあげろ」
周信は指で久五郎の額を押した。すると横からとびだしてその手をつかんで腹立ちまぎれに振りまわしたのは小花。
「兄さんに指一本ふれたら、私が承知しないわ。由緒ある小沼家とは何のことよ。生れつきの貧乏男爵。乞食男爵。イカサマ男爵。一家総勢力を合わせて人をだまして世渡りするのが先祖代々から伝わってきた家伝のイカサマ根性なのよ。乞食! 泥棒! こう言われて怒れないのか。ヤイ、乞食男爵の倅」
「バカ!」
周信は小花の横ッ面に平手打ちをくらわせた。小
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