づいて久五郎がもうける。つまり多門の言葉を信用していたのである。そして久五郎がペルメルから全額支払いをうけて大モウケのあかつきにはタンマリ割前をとる胸算用であった。
 意外の破産に驚いたが、こうなってしまえば仕方がない。彼は久五郎を面罵して、
「キサマはなんというマヌケのバカヤローだ。ヌケ作の破産者に男爵の娘が女房などとはもってのほかだから、つれて帰る。娘をキズモノにされたのは残念だが、財産がなくなっちゃア慰藉料もとれない。しかし、全然一文なしではあるまい。何かあるだろう。この離婚願いに印をおして、何かだせ」
 一しょに来ていた男爵の長男周信、これが立派な身ナリをカンバンに悪事を商売にしているシタタカな男で、血も涙もない奴だから、
「タンポにはいってないのは芝の寮だけだ。日本橋の店も土地もそッくりタンポにとられているから仕様がないが、カケジや焼物なんぞに何かないかな」
 ちゃんとタンポまで調べあげている。土蔵をひッかきまわしたが目ぼしい物もない。すると政子が、久五郎を睨み下して、
「この男はずるい悪党よ。破産して一文ナシだなんて世間には吹聴して、虎の子を肌身はなさず隠しているのよ。探し
前へ 次へ
全64ページ中18ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング