を離婚させて連れて戻るために乗りこんできて、ドッタンバッタン家中を引ッかきまわして荷づくりして引き払った出来事が十二月十七日。また私と周信さんが言い争ったのもその日です。周信さんが土蔵へ目ぼしい品物を物色にでかける姿を認めたものですから、引き止めて、奥の間へ誘って詰問し、言い争ったのです。その日はせつない日、口惜しい日、そのために忘れられない日でした。十二月二十二日には、兄と私とハマ子と三名、寮へ引越し。一月の十三日に、小沼家の親子三名が寮へ現れて、そろそろ新居に落ちついて隠し物もとりだしたころだろうと憎いことを言いながら家探しの日。家探しの三人が帰ったあとで、私は兄さんと争って寮をとびだしました。家出の記念日です。その日から伊勢屋さんが親切にひきとめてくれるままにズルズルとお世話になって、一月二十八日に御当家へ奉公にあがりました。ざッとこんなことがこの半年の私の大きな出来事でした」
「ではあなたに代って私がそれを文字の日記にしるしておきましょう」
 と、新十郎は日附と出来事とを書きとめ、さて元子夫人にイトマ乞いして、
「脅迫状がきましたらイの一番に私に知らせて下さい」
 とたのんで別れをつげた。

          ★

 さてその足で久五郎ハマ子の侘び住居を訪れた。世捨人だから言うまでもなく日記もつけていないし、俗事について多く語ることも好まない。何をきいても手応えがなくて手こずった。小花から聞き得た限りの共同の生活中の出来事をたよりにこんなことが有りましたねときくと、そう、そんなこともあったようだ、たしかに、というような返答ぶり。
「いつぞや周信さんたちが凄い剣幕で家探しに現れたそうですが」
「そうでしたッけなア。そう。そうでしたなア。明朝大工とトビをつれてきて天井もハメもネダもひッぺがして人間の尻の穴も改めてやるから待ってろなんて、あの時は、私たちふるえあがりましたっけ」
「それはいつごろのことでしたか」
「さア、春さきの陽気になりかけたころ、三月か四月ごろかなア」
「小花さんの失踪後ですね」
「そうだね。小花はそのときは居りません。なぜってお互の尻の穴を心配し合ったのはたしかに私たち夫婦二人だけ。ほかにお尻がなかったんだねえ。ところが案じたほどのこともありませんでした」
「お尻の穴は無事でしたね」
「いえ、周信ほどの悪党が堅く約束しておきながら現れなかっ
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