も、彼(つまり彼女のオヤジ)が殺されてみると、誰が彼を殺してもモットモだと妙子は思ったが。
★
その日は月曜日であった。
なるほど全作が殺されてみると、この日は朝から変った一日であった。
ふだんは十時からであるのに、この日は七時前に大伍が病室へ現れた。まだ木口看護婦が全作に食事を与えている最中であった。それを見ると全作は待っていたらしく、
「そろそろお前を起させようと思っていたところだ。宮本は成田へたったろうな」
「今朝五時にたちました」
「ナミをよべ。伊助をむかえるダンドリをオレがよくきかせてやる。お前は伊助がくるまで隣りの部屋に居るがよい」
宮本とは当家の書生だ。これがまた書生の中で有数の能ナシで、もう三十を一ツ二ツこして鼻下にヒゲをたててもフシギのない年配であるのに、よその三畳にくすぶってオマンマにありついてる。そこに住みついてから十年にもなるという人のウチの主《ヌシ》になりそうな存在であった。
大伍がナミをつれてくると、全作がナミに云った。
「八時に伊助という織物の行商人がくるから、門の外で待っておれ。四十がらみの見るからに品のない行商人らしい
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