まった。オトメは自分一人では食うことができない。面倒を見てもらいに全作にたのみにきたが、会ってもくれないから、ドア越しに、
「私はこのうちの長女、お前の姉さんだぞ。オノレ祈り殺してやるから覚えてろ」
ドアをぶッたり蹴ったりして帰った。一人じゃ生きて行けないから、大霊道士のところへころがりこんだ。道士は霊界と自在に往来通話ができる人の由で、オトメは十年も昔から信心していた。教祖の膝下に身を投じたから、悟りをひらいたのか、ちかごろは三日にあげず全作を見舞って、
「神様に祈って病気を治してあげるから、会っておくれ。顔を見せてくれなければお祈りもきかないよ。たちどころに病気が治るからさ」
相変らずドア越しであるが、来るたびに声が優しくなるばかり。このさき益々声が優しくなるかと思うとゾッとするようだ。
この一心不乱の志願者にくらべれば、弟の大伍が便器を捧持して往復する姿などには第一霊気の閃きがない。
「祈ってもらえばいいのに。退屈な病人だ」
見るもの聞くものが妙子の気に入らなかった。しかし、まさか全作を殺すような気性のスッキリした人物がこの邸内に居ようとは考えていなかったのである。もっと
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