のですね。そのとき兄は自首をすすめ、外人にだまされて詐取されたという言いヌケも兄が教えてやったということです。そして一応服役して、それから品物を持ってこい、五万円で買ってやると約束したと申していました」
人々はタメイキをついた。そして新十郎の質問を期待した。彼は訊いた。
「一色は仏像を持ってきましたか」
「持ってきました。一尺五寸ぐらいの黄金の像で、まさしく膝に大きなダイヤが光っていました。兄は仏像とダイヤが別々にはずされて、原形を失うのを恐れていましたが、そっくり原形のままで、両手の指は意外にもきつくダイヤを抑えていて、ミジンも動かないのですよ。そこに職人の技術がこもっているようだと兄は感心していましたよ。仏像そのものが美術的にも名品だと後で兄はもらしました。彼が予想以上に気に入ったのは私には一見して分りました。もうそうなれば五万円なんぞは眼中にありません。私にスミをすらせ、筆をとって川田さんに一筆したため、以下のテンマツはすでに申上げた通りです」
「その仏像はどこへ置きましたか」
「この卓の上です。置時計の横へおいて、兄はねて眺めていました。私が知っている限りは、仏像はそこにあっ
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