て、それから五万円の件をきいた。大伍は隠す風もなく、昨日朝来のことを余すところなく語った。行商人伊助が控えの間に一人で残ったところでは人々は息をのんだが、大伍が戻ってきて再び二人で病室へはいったので人々は安心した。
「で、行商人伊助は実は一色又六ですね」
「そうです」
「彼がその朝八時にくることは、いつから分っていたのですか」
「ちょうど一週間前、先週の月曜日です。無名の封書が来たのです。役場の小使と申しても、金クギ流の文字ではありませんでした。私は兄によばれて封書の内容を読まされたのです。出獄後一年あまり余念なく行商に身を入れたので、人々の疑いもはれ、誰も怪しむ者がなくなったから、仏像をほりだして持ってゆく。織物の行商人伊助と名乗るから左様御承知ありたい。文面から判断して、まちがいなく直筆です」
「すると兄上は前にも一色とレンラクがあったのですか」
「兄の語るところによりますと、一色は仏像を盗みだすと、五万円で買いたがった外人を追って探しあぐねたあげく、捕われる前日、兄を訪ねて来たそうです。その時から仏像は所持しておらなかったそうです。利口な男で、盗品は隠しておいて売り口を探していた
前へ
次へ
全55ページ中43ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング